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株式会社エニアグラムコーチング - ニュース

2013/05/08

【特別レポート】インタビュー「人の評価を適正に」第31代 日本銀行総裁 黒田東彦氏

(インタビューは2005年1月、首相官邸で行われたものである。インタビューアーはエニアグラムコーチング社代表安村明史 )

黒田氏は2005年1月まで小泉総理の国際金融経済アドバイザーとして内閣官房参与を勤められ、2月1日よりマニラに本部を置く国際機関「アジア開発銀行」の第8代総裁に就任した。インタビューは総裁就任直前の1月26日に行い、リーダーとしての抱負を伺った。

(安村)総裁に就任するにあたり人的資源の活用をどのように考えますか?

(黒田氏)アジア開発銀行は63カ国の加盟国により成り立っているが、組織内にはそれと同じ位の国籍の人々が働いている。文化や社会的背景の異なる人々が集まる組織をまとめるのは難しいところであり、面白いところでもある。

そのような組織でリーダーとしてまず大切なことはポリシーを明確にすることだ。つまり、一国内の組織のように自動的にまとまっていくことにはなりにくいので、常に、何をどのようにしていくか、理念・政策体系を明確に示すことが必要と考える。

次にスタッフの個々の能力が最大限に発揮できるようにしたい。成果がどのくらい上がっているか評価するシステムを整備し、インセンティブの方向をはっきりさせたい。パブリックセクターは目標が単純でなく、複雑で多面的であるため、何が高いパフォーマンスと言えるのか評価が難しい。クリアに政策・目標を伝え、スタッフに努力する方向を示して、それに応じた人の評価を適正に行い、処遇していきたい。

(安村)アジア経済と日本経済の共生については如何ですか?

(黒田氏)経営者としては、自分の企業の強いところを最大限に活かし、選択と集中でやっていくことが大切と思う。従来から続けていても先行きの見込みがないものなどには力を入れず、リストラをする、利益をあげている、あるいはあげる見込みのある商品に集中させることが必要である。昔のバブル期や高度成長期のようにあらゆる業種が伸びることは期待できない。地域や産業によって偏りがあるし、あるいは企業ごとに優劣の差が激しくなってきているからこそ、選択と集中をやっていくしかない。

ひとつのキーはアジアである。今までは、アジア諸国との競争をそれ程考えず、欧米の商品と戦ってきた。これから、韓国・台湾・香港・シンガポール・ACEAN諸国・中国・インドなどを活用して、必要があればアジアに出て行って投資をする、あるいはアジアの企業と組んで生産をする。アジアとどのようにインテグレートしていくかが戦略のひとつとして非常に重要となる。アジアは、ここ10年から15年くらいの間に急激に伸びた。97年の通貨危機は一時的な中断であって、インドネシアは例外だがほとんどの国で回復・成長し、益々輸出競争力が高まっている。同じ商品を作っても売れないので、それ以上の新しい商品や、生産性が高い方法を見いだすか、もしくは進出していって組んでやっていくのが良い。選択と集中で、アジアをどう活用していくか色々と考えることだ。

また、アジア諸国の所得も上昇し需要も増えてきているので、日本の高品質の食品、商品、自動車などが売れ出している。これからのアジアは生産基地としてだけでなく、日本商品のマーケットとしてどう活用していくかが重要なのである。

(インタビューアーより)

黒田氏は「ポリシーを明確にすること」がリーダーには必要だと話されています。今回、日銀総裁として、2%の物価上昇という明確なポリシーを打ち出している姿は、当時お話を伺った内容と一貫性があります。

また、アジアの価値観は実に様々であり、当然、複雑であったことでしょう。現在の日本が、徐々に国際化の波の中にあり、様々な価値観にのみ込まれつつある今、黒田氏のおっしゃるように「クリアに目標を伝え努力する方向を示す」ことで、日本国民に希望を与えることが出来るのだと思います。アジアでのご苦労が、日本でも充分に活かされますことを期待致します。

また企業における選択と集中は個人にも当てはまります。自分(部下)の強みを知り、何を強化すべきと選択するか、またどこまで集中してエネルギーを注力するかが、重要なキーであることは論をまたないことと思われます。(了)